ランジェ日記 + !

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EP2 チャプター6 Symphonia

Chapter6 Symphonia




古代ガナポリーの伝説


古代ガナポリーの人形。

彼らは神よりも美しい人間の形をしており。

それはまるで薔薇の蕾のようで、近づくことのできない存在である。

人形は自ら動く力はなく、元々の動力はエタを基本としている。

故にエタの力が消えたら自滅してしまう。

美しい花弁は自ら散っていく。

彼らがどんな存在なのかは明らかになっていない。

但し、それを記したいくつかの文献は残されている。





-ブルーコーラルの酒場-

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ブルーコーラルの酒場では、オルランヌ公女が大会に出場するという噂で持ちきりになっていた。

実際に公女を見たという者や、その高貴な顔立ちに魅了されてしまったという者。

公女出場はオルランヌ王家が流したデマだと言う者もいれば、そんな噂などまったく信用にならないという者もいた。

「公女が大会に現れたら、全世界にオルランヌ後継者は私ですって言ってるようなもんだけどな。とはいえそうなると、失踪した腹違いの兄は王の座を夢見る事も出来ないって事だ」

そんな住民の声を聞いたシベリンは、杯を置き不安そうに視線を落とした。

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向かいに座ったナヤトレイは、シベリンを気にした様子で眺めていたが、ボリスは黙ったままだった。

「そういえば王子もいたな。失踪してもう数年も経つし、どこかで死んでいるんじゃないか」

別の席に座ったランジエとイサックもまた、住民の話に耳を傾けていたが、アナベルはつまらなさそうにクマのぬいぐるみを抱いている。

「もし公女が無事だとしても大丈夫なのか? 毎日老いた狼が、王の座を狙っているじゃないか」

「クラレット公爵のことか? ハハ、世界中が知っているね。ウサギような甥と姪が消えたから、楽しくてしょうがないだろうよ」

「でも人として有り得ないだろ、甥と姪が生きているか死んでいるかわからないのに笑っていられるなんて……おっと、話が逸れすぎたな。それより噂の人物は大会の予選を通過したのか?」

「ああ、無事通過したらしい。噂通り実力はあるらしい、このまま決勝に進んで、あっというまにオルランヌの王になるかもな。ハハハ」

「それはそれで面白い展開さ、まあ俺たちにはなんの関係もない話だけどな! さあ飲もう、シルバースカル大会に乾杯!」

人々は公女の話で持ちきりだったので、ナヤトレイはイスピンのことが心配になっていた。

噂の出場者が偽者である以上、イスピンも指をくわえて見ている訳にはいかない。

イスピンもまた行動を示すであろうが、表に出るとなると、クラレット公爵との接触に繋がる恐れがある。

ニセ公女の対戦相手として出場するシベリンは、イスピンにこのことを伝えなければならないと考えていたが、イスピンが今どこにいるのか、見当もつかなかった。

それぞれが考えを巡らせ、重苦しい雰囲気に包まれていたが、アナベルの一言で、シベリンたちは思い出したように顔を上げた

「つまんない、アナベルもう飽きた」

頬を膨らませたアナベルを見たイサックは、やれやれとばかりにため息をつき、新しい情報があるかもしれないと広場へ行くことを提案した。











-ブルーコーラル広場-

広場についたナヤトレイたちは、立てられた看板に新しい告知を見つけた。

シルバースカル予選通過者を対象とする公式訓練の開始告知を知ったアナベルは嬉しそうに声を上げる。

「楽しそう~!! アナベル、早く戦いたい!」

「戦うって言っても思ったより大変だぞ、アナベル」

「アナベルできるもん! イサックは何でいつもアナベルだけ叱るの!」

イサックは、わがままを言うアナベルに呆れたが、これ以上機嫌を損ねることに恐れ叱る事は出来なかった。シベリンとボリスも口を噤んだままだったが、ナヤトレイだけは違う。

「甘やかしてはダメ、わがまま」

「アナベルわがままじゃないもん! みんなアナベルのこと嫌ってる!」

アナベルが頬を膨らませると、ランジエはどこか楽しそうに笑った。

「ハハハ。可愛いな、アナベルさん」

ランジエは、幼いアナベルを妹のランズミと重ねた。叶う事ならば、ランズミをブルーコーラルに連れて来たいと考えていた。

ランジエの一言で、アナベルの機嫌が幾分収まったのを見計らうと、シベリンが間へ割って入った。

「さあレディは落ち着いて。シルバースカルの訓練なんだけど、掲示情報だけでは足り無そうだ。集合場所へ行って見よう」






-シルバースカル予選通過訓練場所-

ブルーコーラルの町外れ、エルラ島へと続く道沿いに、シルバースカル訓練場所の特設会場が設けられていた。

会場では参加者や見物者、大会の関係者などの人々で溢れ、大会の始まりを今か今かと待ち望んでいる。

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「お待たせ致しました、これよりシルバースカル大会訓練案内についての告知を開始したします」

お祭り用の椰子の木帽子をかぶったエンリコは、大仰に手を振り、シルバースカル大会についてのアナウンスを始めた。

「シルバースカル大会は予選通過者を対象に、毎年一風変わった訓練を行っております。今年は過去5回の優勝を飾った、イングハスビ様を称える訓練を用意しております。この訓練を終えた方々がシルバースカル本選の正式な出場者となり、公式宿舎に投宿出来る様になります! 訓練は三種類、見事本選出場を手に入れるのは誰なのか! それでは皆様の検討を祈り、ここに訓練開始の挨拶とさせて頂きます!」

広場に集まった者たちは、エンリコと予選通過者に盛大に拍手を送り、参加者は皆が揚々とそれを受け入れていた。

「わあ! イングハスビ様って、あの伝説のシルバースカル優勝者?」

楽しそうに声を上げたのはルシアンだった。

イングハスビはシルバースカルで五度の優勝を飾った勇猛な戦士だった。その名声は数多の国々にも知られるほどで、ティチエルやジョシュアも耳にしたことのある名だった。

そんなイングハスビを称える訓練と聞き、イスピンは訓練に不安を感じていたが、隣にいたミラは、問題無いだろうとばかりに腕を組み、悪戯に笑顔を浮かべていた。


会場から少し離れていた場所で話を聞いていたボリスは、エンリコのアナウンスが終わると一歩前へと進み、辺りを気にした様子で見渡した。

「今、予選通過者がここに集まっているということは……」

ボリスの言葉に、ナヤトレイも頷いた。

「いる」

「レイ、何がいるんだ?」

シベリンは不思議そうに首を傾げたが、ナヤトレイは何も言わずに歩き出し、ルシアンたちの元へと歩み寄った。

すると、ナヤトレイのアーティファクトが突然輝き、それに呼応するかのように、その場にいた全員のアーティファクトが光りを放ち始めた。

「ううっ……頭が」

ボリスは突然の傷みに襲われ膝を落とし、クロエは宿命の笏から発せられる力を、必死になって抑え込もうとしていた。

次第に共鳴が増していき、十三人は暗闇の中に包まれた。

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アナイスを中心としたサークルを描いた審判者たちは、自身とそれぞれの姿を確認し、夢の中の幻想と照らし合わせていた。

夢で見た人々、これは幻想なのか、現実なのか、理解出来ない事象に戸惑いながら、ただ時が経過するのを感じた。

一同の意識が戻り、誰もいなくなった広場で感じたのは、再び出会うことができた喜びだった。

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「わぁ~嬉しい! 皆さんお元気でしたか?」

「ハハハ! 本当に不思議だね、またこうして会えた!」

喜びを分かち合うルシアンやイサックたちであったが、ただ一人、拳を握り締めて怒った様子のマキシミンは、シベリンに近付くと勢いよく頭を殴りつけた。

「ぐっ!!」

「マキシミン! 何するんだ!」

驚いたイスピンは慌ててシベリンに駆け寄ったが、マキシミンは当然のことだという表情をしていた。

「突然いなくなるやつがあるか! 行くなら『行く』って言ってから行けばよかっただろ。ふぅ、やっとスッキリしたぜ」

「まぁ、あの時はやりすぎだったのかもな。一言もなしに……しかも2回も! どれだけ驚いたかわかってるのか?」

「ミラさんまで!」

「イスピン、大丈夫だ。マキシミン、あの時は本当にすまなかった。本当に悪かったと思っている」

イスピンは心配そうにシベリンを見つめていたが、シベリンが一度小さく笑って頷いたので、それ以上のことは言えなくなってしまった。

「シベリンに何かあったの?」

ルシアンは不思議そうに訊いたが、マキシミンはもう全て終わったことだとルシアンに伝えた。

一度は落ち着いたかのように見えたが、どこか気まずい雰囲気を感じとったアナベルは突然泣き出し、イサックに訴えかけるように言った。

「うわぁーん! アナベル喧嘩なんてイヤ! 見たくない!」

子供が騒ぎ出したと、マキシミンは苛苛しながらアナベルを睨みつけたが、イスピンはそれに驚き、慌てて口を開いた。

「一度町へ戻りましょう。静かな場所の方が落ち着いて話も出来ますし……そうだ、私たちの泊まっている宿はどうでしょうか?」

「この大人数だと、入りきらないだろう。シベリン、そっちはどうだ?」

「うーん、こちらの泊まっている宿も狭いだろうな……」

「狭くても仕方ないだろう、開放的な場所でする話じゃないしな」

「エルラ島は? 開けてるから、全部見える。だから、問題ない」

「レイ……野宿は大変だよ……」

「どうすんだ? 早く決めちまおうぜ」

「それならば……私が部屋を探しましょう」

モイラは論議は時間の無駄だとばかりに扇を煽いだが、イスピンはすぐさまそれに反発した。

「今回もまたお金で解決しようとしていますね」

「あら、前回もわたくしの好意を断ったというのに、また断るのですね。一言だけ言わせてもらうとすれば、時間よりお金の方が大事なのかしら?」

「なんでもお金で解決しようとすることが嫌なだけです」

「わたくしがお金持ちの貴族だからといって、お金を粗末にはしないわ。幻想で見たみなさん、わたくしたちは普通の縁ではないに違いないわ。この疑問を解決していく為には、皆が互いを知る必要があると思うの。こんなところで足止めをくうよりは、早く一つの空間を手に入れて、より自由な意見の交換をする方が良いのではないかしら」

「確かにモイラさんの話には一理あります。しかし、金銭的な借りは作りたくありません」

「そう……では今泊まっている宿と同じ価格で、もう少し大きな部屋を探してみるのはどうかしら? この町には知り合いがいるの。頼めば安く部屋を提供してくれるはずよ」

「なるほど、それはいい考えですね。みなさん、どうですか?」

クロエの提案に同意したイスピンが意見を求めると、ランジエは悪くない提案だと頷き、ミラは同じ値段で大きな部屋に泊まれるのは一石二鳥だと喜んだ。

アナベルは綺麗なお姉ちゃんと一緒にいられるのは嬉しいと言い、イサックもアナベルの機嫌が良くなるのならと胸を撫で下ろした。

ただ一人、ジョシュアだけはクロエの積極的な好意を、何か理由があるのではないかと勘ぐっていたが、今はまだ様子を伺うことにした。

「それではブルーコーラルに戻りましょうか」








-ブルーコーラル モイラの手配した宿-

雑貨屋が並ぶ露店外の路地を抜けた先には、少し古いが大きな宿があった。

町外れではあったが、部屋は一同が窮屈なく過ごせる広さで、クロエの仕事にティチエルは拍手で賞賛した。

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「わぁ~大きな部屋ですぅ! モイラさんのおかげですね!」

「気に入ってくれたみたいで、よかった」

「あの……モイラさん。さっきはイライラしてしまい……ごめんなさい。そしてありがとうございます。おかげでみんな一緒にいられます」

「わたくしも少し強圧的だったわ、ごめんなさい」

イスピンが礼を述べると、クロエも少し恥ずかしそうに詫びた。

「これこれ、この雰囲気。あったかくて寒気がするな。へっ」

マキシミンは構うこと無く皮肉を言うが、二人はもう慣れた様子で笑っていた。

「あれー? ちゃっかりお姉ちゃん、さっきと服が違う!」

「アナベル! そんな言い方はだめだろう! モイラさん、代わりに謝ります」

アナベルの失礼な言動にイサックは頭を下げたが、クロエはちゃっかりという初めて聞く言葉に違和感を覚えながらも、子供のいうことだと大目に見ようと考えた。

「大丈夫よ、気にしないで。ドレスを着て調査をするのはあまりに目立つから、宿の手配をするついでに、変えの服を用意したの」

「ふんふん! お姉ちゃんも綺麗だけど、でも、アナベルが一番かわいいもん!」

アナベルは負けじとばかりにクマのぬいぐるみを振り回していると、今度はジョシュアが、クロエの服装に口を挟んだ。

「変えたとはいえ随分と高級そうな服だから、すぐ見つかると思いますけど」

「わたくしの中では一番地味な服だから、もう何も言わないで欲しいわね。ジョシュア様」

「そうなんですね」

クロエは少し機嫌が悪そうに答えたが、ジョシュアは悪びれる様子もなく、淡々と頷き納得した。

「まぁまぁ、今日はみんな揃った特別な日なんですし、丸く丸くいきましょう~! ハハハ!」

そう言ってイサックはアナベルを抱えると、話を進めようとそれぞれのグループに別れた。

ルシアンとボリスは久々の再開を改めて喜び、レイは雪の町エルティボでの出来事を伝えた。

マキシミンとシベリンは、互いに同行する人数が増えて大変だと笑い、アナベルはこの中で一番かわいいのは自分だと、イサックの手を引き念を押した。

ランジエとジョシュアは、互いの動向を気に掛けていたが、二人が目を合わせることは一度も無かった。

クロエは、皆が以前から行動を共にしていた事に興味を持ち、ティチエルは、したい話がたくさんあるとミラに語りかけていた。

時には驚き、時には笑い、各々が話を続けていたが、突然立ち上がったシベリンは、大事な話があると皆を注目させた。

「まだ積もる話はあるだろうが、オレたちにはすべきことがある。みんな、少し話を聞いて欲しい。オレはシルバースカル本選のニセ公女の対戦相手として出場する。ボリスとレイも一緒だ。ランジエさんの紹介でシャドウ&アッシュから以来を受けたんだ。そしてその試合でオレは、絶対に勝ってはいけない。そう指示された」

「シベリンさん! それは皆さんと共有する話ではないようですが」

ランジエは、突然シベリンが思わぬことを口にしたので、慌てて制しようとしたが、シベリンは強い意志を持ち、伝えるべきことだとはっきり言った。

「ニセ公女の対戦相手だなんて……どういうこと……?」

なるべく慎重に行動すべきことだったが、公開してしまえば逆効果になるとランジエは考えていた。全てが終わってから話をした方が良いと思っていたが、突然の出来事に思惑は外れ、予定の狂いを感じてしまう。

「シャドウ&アッシュは、王権を安定させるためにオルランヌが始めたことだと言った」

「しかしシベリンさん、少なくともオルランヌ王室ではないはずです。王室が企てたなら、シャドウ&アッシュには依頼しないはずですから」

オルランヌ王室は関係していないことを指摘したイスピンに対し、公女の側近だと聞いていたモイラは、その読みの鋭さに、イスピンと公女が、どんな関係だったのか気になり始めていた。

「うーん……多分他に悪い人がいるんだと思いますぅ~」

「オルランヌ公爵派で王座を狙う人物……」

「クラレット公爵でしょうか?」

「ジョシュア様、クラレット公爵がニセ公女を立てる必要は無いはずです。ニセ公女を王位に据えて、人形ごっこをするわけではないならですが」

「しかしランジエさん。本当の公女の顔を知る人が確実にいるはずです。それは不可能でしょう」

「ランジエさん、ジョシュアさん……本当の公女はもう忘れられた人です。覚えている人がどれくらいいるんでしょう……当然、顔も変わっていると思いますよ」

イスピンは自身のことでありながら、オルランヌには自分のことなど覚えている者はいないと感じ取っていた。イスピンには、親縁の者も、帰る場所も無かった。

「待ってくれ、その公女は本当に偽者なんだな? そうしたら、その偽者は命を失う事になるんじゃないか? 強力な権力を持った者なら、仕事を終えた後に邪魔な証拠を消そうとするだろうから」

「うわ! イサックどうしてそんなこと知ってるの? チョーかしこい!」

アナベルは心の底から感心した様子でイサックを眺めていたが、イサックはなぜか馬鹿にされたように感じてしまった。

「ま、まぁ、それは、そんな時もあるさ……」

「しかしそうなると、ニセ公女の死だけで人々は本当の公女が死んだと錯覚するようになるかも」

「死んだら、話せない、永遠に」

ニセ者を殺して本物の公女が死んだように見せかける。単純で浅はかな考えではあったが、世論は導き次第。例え偽者であろうと、選ばれた人間が死んでしまうと、疑いは泡のように消えてしまう。

ニセ公女の死、それがもし現実になると同時に、秘密を握っているシベリンも、命が危うくなるということでもある。

「一度整理するか。俺たちの取るべき行動は何なのか。シベリンはシャドウ&アッシュの依頼でニセ公女の対戦相手になった、シルバースカル大会に出場しわざと負ける、念のためレイとボリスを連れてきた……ってとこか?」

「うん」

「そして、ニセ公女の背後にはオルランヌの公爵がいて、クラレットってやつが有力ってことか?」

「そう」

「ニセ公女は大会で成果を挙げ、人々に存在を見せつける。その後ニセ公女は殺されて、クラレット公爵が王の座を狙うか、あるいはニセ者を王座に据え、裏で操るということだな」

「クラレット公爵にとっては、何が有力で一番いいんだろう」

「それはニセ公女が死ぬことなんじゃないか?」

偽者とはいえ、人が死ぬということはあってはならない。ボリスはランジエを睨みつけ、強く訊いた。

「ランジエさん、これはどういうことなんです? シャドウ&アッシュと既に接触があったということですか」

「それについては一緒にお聞きしたはずですが?」

「おいおい、二人とも落ち着いてくれ。ちゃんとした証拠はまだ無い。このままじゃ疑いが大きくなるだけだ。下手に動いたらクラレットやシャドウ&アッシュの思い通りになってしまう。もう少しきちんと考えよう」

シベリンはボリスとランジエを宥めると、考えを纏めることが大事だと促した。

「とはいえ、それだけでは正確な情報を類推するのは難しいわね。信頼のおける情報が必要だわ。ニセ公女の顔や、名前だとか」

クロエは開いていた扇をぱちりと閉じると、ニセ公女についての情報を求めた。イスピンもクロエの意見に賛成すると、顎に手を充て、情報が不足していることを思慮に入れた。

「シベリンさんがニセ公女の対戦相手になるという情報は得ました。大会のことについてもそうですが、確実な情報をひとつひとつ積み上げていきましょう」

「それなら全員で分担して、確実な情報を集めてくるのはどうかな?」

「それがいいですね」

「じゃあ僕はファイトクラブに行ってみる! やっぱりお金に触る人たちは噂にも早いからね! ボリスとレイも一緒に行こう! へへ」

ルシアンは一人で目的地を決めると、ボリスとレイの腕を取り、まるで遊びに行くかのように楽しそうに笑った。

ルシアンが動き始めたので、ランジエはシベリンが誰かと行動を起こす前に声を掛けることにした。

「私はシベリンさんとケルティカに行きます。何か情報が得られると思いますので」

ランジエがケルティカに行くと聞き、マキシミンは不思議そうに訊いた。

「直接シャドウ&アッシュに行ったほうが早いんじゃないか?」

「それは危険すぎます。ケルティカは私の縁故地なので、シャドウ&アッシュよりもずっと安全です」

「そんなもんか……ん? なんだよ、俺の方を見て……」

イスピンは、マキシミンが誰かに迷惑を掛けるのではないかと、不安そうに注視していた。

「よし! マキシミン、ボクたちはもう一度酒場に行こう。すぐ隣だし、盗み聞きには最高だからね。あはは」

「お、俺と? まぁ……そうするか」

イスピンはマキシミンを放っておいてもいいことはないと思い、マキシミンを連れ出すことに決めた。

「わたくしはジョシュア様と調査をします」

「はい……えっ!?」

ブルーコーラルで得られる情報に限界を感じたクロエは、セバスチャンと接触を図ることにした。

クロエの言葉に思わず返事をしたジョシュアだったが、まさかクロエから誘われるとは思いもしなかった。

「ちょ……ちょっと」

「残りのみんなはどうしようか?」

否定する間も無くミラは話を続け、あっという間にジョシュアはクロエと行動を共にすることが決まる。

「俺たちは町を回って色んな人に話を聞いてみよう! 今は公女の噂で溢れているから良い情報が聞けるかもしれない……おっと、とはいえもう日が暮れてるな」

「時間のこと、全然気にしてませんでした。せっかく宿も取ってもらった訳ですし、今日はゆっくり休んで明日に備えましょうか」

「それがいい! アナベルもう眠い!」

「ハハ! そうだな、今日は休むことにしよう!」

「わーい! ふかふかのベッドだー!」

話に夢中になっていた一同は、窓の外が暗くなるのに気付き、続きは明日に持ち越すことに決めた。






-夜の宿-

皆が寝静まった中、シベリンは眠りに着けず、背を壁に預けていた。

失った記憶、取り戻した記憶、どれが本当の自分でどれが偽りの自分なのか。

シベリンは暗い部屋で額に手を置き、確かめるように記憶を辿っていた。


シベリン・ウーという名は、養父ケレンス・ウーがつけてくれた名だった。本当の名はベルナール・ゾフレ・ド・オルランヌ。

オルランヌの王子であり、時期王位継承者。

その日は王位継承式に出席する為、船に乗り移動している最中だった。

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隣に居たのはイェフネン・ジンネマン。ボリスの兄である彼は、優秀で忠実な護衛騎士だった。

航海の途中、イェフネンとは他愛の無い会話をしたり、今後のことについて語り合ったりもした。しかし穏やかな航海は長くは続かず、突如、傭兵たちが押し寄せてきた。

船にはオルランヌの騎士も多く乗っていたが、騎士たちは突然の奇襲に為す術なく倒れ、イェフネンもまた、ベルナールをかばい船から落ちてしまった。

そして、ゆっくりと近付く黒い影は、鋭い目を光らせながら、ベルナールを攻撃した。

長い髪を肩で結び、ベルナールとそっくりの容姿を持った傭兵は、まるで自身を鏡で見ているかのような錯覚だった。

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ベルナールと傭兵は息が詰まるほどの攻防を繰る返した。

どれほどの時が経ったのかは分からなかったが、それはとても長い戦いだった。

いつしか雷が鳴り、雨が降ってきた。体を支えきれないほどに船は揺れ、マストは軋みを上げ帆が裂け始めていた。

体にうちつける雨が徐々に体力を奪い、そうしているうちに船は転覆し、その後の記憶は残っていなかった。




複雑に絡まる糸を解ける可能性を持った人物は二人。

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意識の無いベルナールの命を救い、本当の子供のように育ててくれた養父、ケイレス・ウー。

ケイレス・ウーは、ベルナールのことを死んだ息子に面影を重ね、帰る場所が無いなら、養子になってもいいと手を差し伸べてくれた。

もう一人は、砂漠で見た奇妙な女性、カミラ。

彼女はベルナールを見つめ、運命の糸をずっと握っていると言った。

印象的な言葉だったが、何かを知っている様子を持った彼女の顔は、ずっと忘れる事が出来ない。

頭の中で混じる不確かな記憶。この記憶は本物なのか、それともまったく違うものなのか。

本当のことだとしたら、ベルナールとしてロッテを守れるのか。それともシベリンとしてイスピンを守らなければならないのか。

シベリンの苦悩は一晩中続き、結局、一睡も出来ること無く朝を迎えた。







-ブルーコーラル広場-


早朝、ランジエはシベリンを宿の外へ呼び出していた。

「シベリンさん。私に何か話があるのでは?」

ランジエは、昨日シベリンが全て話しをしてしまったことに対し、言うべきことがあるのではないかと返答を待っていた。

「そうですね」

「本気ですか? 仕事をぶち壊そうとしているんですね」

「事実を話しただけです」

「私は最小限の情報のみを提供していましたが、シベリンさんは必要の域を超えました。オルランヌ公国とシャドウ&アッシュが加担したことに、アノマラドのフォンティナ家も介入しています。行動を間違ったりしたら……命を失うかもしれませんよ」

「もう始まったことです。取り返しはつきません」

「覆水盆に返らずですね。これ以上は聞きません。話してたって時間の無駄ですから」

ランジエの言葉は冷たかったが、嫌悪や反感はまったくなく、事実を受け止め、それでも目的の為に先に進もうとする意思を感じさせた。

シベリンにはランジエの考えがまったく分からなかった。何のために協力するのか、何のために力を求めるのか。

そんなことを考えていると、ランジエが続けて言った。

「それではケルティカに向かいましょうか」

シベリンの考えは空しく、ランジエはただ、平然と冷静に、言葉を発しただけだった。






-ケルティカ ゲート-

「ランジエさん。あの……もしかして以前行った『みんなの国』に行こうとしているんですか?」

「はい。覚えていますよね。その場所へ向かいます」

ケルティカ、カモミールカフェの地下に民衆の友のアジトはあった。シベリンは、一度ランジエと共に訪れたことがあったが、そこが何のための場所なのか、未だに理解は出来ていなかった。

「あー、明白に! ムカツク!」

民衆の友のアジトでは、メイリオナが、今日も不機嫌そうに部屋の中を歩き回っていた。

「他のみんなはシルバースカル大会を観に行ったのに、メイ様一人だけ置き去りにされるなんて……」

メイリオナが腕を組み、ため息をつくと、扉の開く音が聴こえた。
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「こんにちは。メイリオナ様」

「助言者君!」

「お元気でしたか? ランズミは?」

「元気にしてるよ~、お兄さんに会いたがっていたよ~」

「そうですか……仕事が終わったら、寄ろうと思っています」

「うんうん、それがいいね~。それにしても助言者君は、知らない人をしょっちゅうここへ連れてくるね」

「あ、こちらはシベリンさんです。親しい仲なので心配は要りませんよ」

「まぁ、助言者君がそう言うならそうなんだろう。信じるよ」

メイリオナは、特に気にした様子も無くシベリンを見ると、シベリンは笑顔で挨拶をした。

「こんにちは、お嬢さん」

「ハロー! お~、君、マッチョだね!」

「は……はは。ありがとうございます」

「メイリオナ様、知りたい情報があるのですが」

「おーおー、久々に来たのにすぐ仕事の話か……さすが、助言者君らしいね。それで? 何の情報?」

「今回のシルバースカルに公女の偽者が出場したという情報を得たのですが、シャドウ&アッシュの背後に誰がいるのか調べてください。ニセ公女に関することなら何でも構いません」

「それはまたすごい情報を得たもんだ……シャドウ&アッシュかぁ、あの人たち荒っぽいからあんまり好きじゃないんだけど、それに細かいんだよね!」

「なんとかお願い出来ませんか」

「ふむ……それじゃあ、その代わりに次はこっちがお願いする情報を調べてきてくれる?」

「もちろんです」

「よし! それじゃあ少し準備があるから、その前にランズミのところに行って来たらどう?」

「わかりました。ではシベリンさんはここで待っていて下さい。ランズミのところへ行って来ます」

「ランズミって誰ですか?」

「なんだいマッチョな君、友達なのにそんなことも知らないの? 助言者君のかわいい妹だよ」

「妹!? オレも行きたいんですが、一緒に行ってもいいですか?」

「ええ、お好きにどうぞ」








-ランジェ家-

「お兄ちゃん! おかえり!!」

「ランズミ! 元気にしてたか? ご飯はちゃんと食べてるか?」

「うん、でも大変だよ。プリンが痛そうなの」

「カスタードが?」

「うん、急に。何でかはわからない」

カスタードはランズミの隣で横たわり、ランジエを見上げると、どこか力なく鼻を鳴らした。

「いつからだ?」

「昨日から体調が悪いみたい。プリンもランズミみたいに痛くなったら歩けないの?」

「ランズミ……そんなこと言うんじゃない」

ランジエと話をしていたランズミだったが、後ろに誰かいることに気がついた。

「こんにちは、小さなレディー」

「こんにちは。お兄ちゃんの友達ですか?」

シベリンは友達という言葉に違和感を覚えたが、ランジエの妹の前でわざわざ否定することもないと思い、めいっぱいの笑顔で答えた。

「うん! 友達です。お嬢さんは本当にかわいいですね!」

「本当?」

「ええ! 本当ですよ!」

ランズミに寄り添い優しく手を握る兄を見たシベリンは、妹であるイスピンに何もしてあげれていないと、心の奥が締め付けられるような思いになっていた。

「ランズミ……お兄ちゃんは、当分ここには来れない」

ランジエはランズミの手を握りながら、申し訳なさそうに視線を落とした。

「……久しぶりに来たのに」

「うん、ごめん。いつも申し訳ないと思ってる。でも今回はそんなに長くかからないと思う」

いつも冷静沈着で目的の為なら手段を問わないランジエだったが、妹に対して優しく接する一面を見たシベリンは、じっとその様子を暖かく見つめていた。

「わかった」

「それじゃあランズミ。お兄ちゃん、もう行くね」

「またね、お嬢さん」

「バイバイ、赤毛のお兄ちゃん」

静かに扉が閉められ、ランジエとシベリンはあっという間に去っていってしまった。

「バイバイ……」

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ランズミは誰もいなくなった部屋で一人呟くと、寂しそうにカスタードプリンを見下ろした。

ずっと兄と一緒にいたい。そんな思いが駆け巡ったが、それは叶わぬ思い。

いつまでこの広い部屋で一人で過ごせばいいのだろうか、いつになれば兄と一緒に暮らせる日が来るのだろうか。

ランズミの視線を感じたカスタードプリンは、ランズミの指を舐め、慰めるように小さく鳴いた。







-民衆の友 アジト-



「助言者君!! ランズミのところへは行って来た? イケメンのお兄ちゃんも一緒に?」

「え、オレですか? えっと……はい」

「メイリオナ様が面倒を見てくれたおかげで、ランズミの調子も良くなったみたいです。でもプリンの調子が悪いみたいで……」

「うんうん聞いたよ。でも安心して、薬を注文しておいたから心配しないで」

「そうですか……毎回お世話になるばかりですね」

「大丈夫! 気にしないで! おっと、それより助言者君に頼まれたことを調べてみたんだけど、情報筋の話だと地下に秘密通路があって宿に繋がってるんだって! でも、そんな情報しか得られなかったんだよね」

「秘密通路ですか……」

「助言者君、情報量が少なくてごめん。」

「いえ、ありがとうございました。それではもう行きますね。ランズミのこと、どうかよろしくお願いします」

「うん、わかった。またね~助言者君! マッチョイケメン君も、ぷふっ」

「なんで笑うんですか……」

どこか楽しそうに見送るメイリオナを後に、ランジエとシベリンはケルティカの広場へと歩いていった。

「公女についての情報は入手出来ませんでしたが、秘密通路があるというのはいい収穫になりましたね」

「そうですね。どうしましょう、街でもう少し情報を集めてみますか?」

「そうしたいところですが時間がありません。ブルーコーラルの宿に戻って、情報を纏めましょう」








-ブルーコーラル モイラの手配した宿-

再び宿に集まった一同は、集めてきた情報を持ち寄り、今後の作戦を練っていた。

「ボクたちの集めてきた情報と……ランジエさんたちが集めてきた情報が同じということは、秘密通路に関しては有力な情報に間違いありませんね」

シルバースカル参加者が泊まる宿舎の地図を広げたイスピンは、細剣を納めた鞘で位置を辿り、地下へ通じる可能性のあるポイントを示した。

「通路を使って何が出来るのか……ここを利用しニセ公女に接触、誘拐する事が出来れば、公女は本選に出場しない……」

「確かに誘拐することが出来れば本選出場は阻止できる……だが、誘拐した後が問題だな。見つからないようにするのは第一だけど、どこへ逃げるかも重要だ」

ミラは、誘拐後の逃げ道を確保出来そうな地点を確認し、街から離れたエルラ島に目標を定めると、そのルートが正しいか頭を抱えて悩み始めた。

「誘拐した後はこっそり逃げるより、敢えて騒動を起こしたほうが我々の正体を隠せると思います」

難しい話に飽き飽きしていたアナベルは、騒動という言葉を聞き、悪戯に笑いながら前へと躍り出た。

「爆弾を使って全部爆発させよう! アナベル、それがいい! どーん!」

「アナベル! 今大事な話をしているんだ。ふざけすぎだぞ」

イサックはアナベルの服の裾を掴むと、無理矢理座らせようと引っ張ったが、ランジエはアナベルの意見に賛成した。

「最初から騒動を引き起こす意図なら、他の参加者も宿舎から出るような騒動を起こしたほうが良いと思います」

「火事だ~! って大きな声で叫べばみんなが逃げる、みたいな?」

ミラは派手で騒々しいほうが面白いと言わんばかりに、片目を瞑りアナベルを援護する。

「本選出場者が全員逃げるほど驚かせたほうが、私たちには有利なはずです。脱出する時も、脱出した後も」

「確かに本選に出場するわたくしたちと公女だけがいなくなれば、わたくしたちが犯人と言っているようなものですわね

「しかし、どちらにせよ退路の確保は難しそうですね。騒動を起こせば、警備兵も全員集まると思いますし」

「退路、確保できる。空間ワープ、使う」

「お~、そうです! レイさん! それができれば全部解決ですぅ~!」

「わぁ! なんだかドキドキするね! もうちょっと考えたらカッコいい作戦になりそう!」

作戦は纏まりかけていたが、クロエは別の不安要素を思い出した。

口元に扇を当て、黙り込んだモイラに、アナベルは心配そうに顔を覗きこんだ。

「ちゃっかりお姉ちゃん、どうしたの?」

「ああ……いえ、わたくしたちは別の情報を得たの。クラレット公爵がブルーコーラルに用意した秘密の実験室で、人形の兵士を作っているという情報よ」

「人形の兵士だって!? 何だよそれ……」

「クラレット公爵は二足歩行兵器を作っているみたいよ。古代ガナポリーの人形について聞いたことは?」

「まさか……それを人間が復活させるということですか?」

「わたくしも詳しいことはわからないので、もう少し調べた方がいいと思っています。でも、ニセ公女と何か関係があるかもしれない」

「なあ、俺にはよくわからないんだが、人形の兵士を復活させるって、凄いことなのか?」

イサックは所詮人形だろうといった風に思っていたが、ランジエとクロエは深刻そうに小さく頷いた。

「わたし、人形兵士に関する本を読んだことがあります。いくら強力な魔法使いが来たとしても、人形兵士の結界を破ることは不可能だって、書いてありました……」

「わっ、じゃあ死なないってこと?」

「食べたり、休んだり、死んだりしない、兵士……強力ね」

「おいおい、ちょっと待てよ。もしもその人形兵士の復活に成功したら、そっちの方が問題が大きすぎないか?」

「……クラレットはオルランヌだけではなく、アノマラドも脅かすことのできる存在になるでしょうね」

「ニセ公女に人形兵士……クラレットが描く絵の輪郭がうっすら浮き上がりましたね」

絶対的な力を得、他を脅かす存在になろうとしているクラレットの闇を感じ、一同は静かに決意を固めていたが、ランジエは古代ガナポリーの遺産の復活に興味を抱いていた。

大きな力は罪ではない、どう扱うかが重要だった。

王政に虐げられる多くの民の為に力を使うことが出来れば、あるいは生かすことが出来れば。革命の灯を掲げることも十分に可能だった。

「十分な調査は必要ですわ。全員が大会に参加するのは非効率ではないかしら?」

「確かにそうですね」

「わたしはニセ公女を探すよりも、古代の人形兵士を調査する方が、お役に立てるとおもいます~。エタとの関係もありますし、もしかしたらお父さんに関する情報も……くすん。可能性は……低いと思うんですけど……」

ティチエルがエタという言葉を口にしたので、ランジエはイウェリドの六番目の本に関係があるかもしれないと感じた。

人形兵士に関する調査へ回りたいという気持ちが高ぶったが、人の命に関わる問題に関わっている以上、その気持ちを推し進めることは出来ない。

気持ちを落ち着かせ、一息ついたランジエは、クロエの言う通り、グループを二つに分ける提案をした。

「アナベルは人形! 人形見たい!」

アナベルが声を出すと、イサックは自動的にアナベルのいるグループに決まった。

エタの関わりを探したいティチエル、人形兵士の情報を掴んだクロエとジョシュアも加わると、残りの者たちはニセ公女誘拐のグループに決まったが、一人多いという理由で、マキシミンは人形兵士調査に回った。

七人と六人に分かれたグループは、作戦の準備に取り掛かることを決め、それぞれが作戦の下見を行う為の行動に移した。

「それじゃあ、シルバースカル参加者が泊まるっていう宿舎を確認しておくか」

「わたしたちも、秘密の実験室の場所を確認してみましょう!」








-シルバースカル参加者の宿舎-

「ここか……? 相当でかいな」

参加者の宿舎は、昔のブルーコーラル王城を改造し、大会用の施設として利用していた。

「なるほど、王城ならば秘密通路があるのも頷けますわ。通路はほとんどの部屋と繋がっているはず」

「となると、やはり問題は宿舎から脱出するところになりそうですね」

「ワープ、重要かも」

「そうだね、ワープが大事! すぐに脱出しなきゃ!」

「ふう……準備するものがたくさんありますね……明日は訓練にも参加しなきゃならないですし、急いで準備を整えたほうがよさそうですね」

「確かにそうですね。確認はこれぐらいで大丈夫でしょう。皆さん、一度宿に戻りましょうか」







-数ヶ月前-

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深い森の奥深く、多くの兵士に見張られるように囲まれ、シルバースカル大会に向けて訓練する一人の女性がいた。

「えい! やあっ!」

細剣を構え、鋭い一突きで木を貫いた彼女は、額の汗を拭い、確認するかのように辺りを見渡した。

訓練の場から僅かに離れたところで、五人の兵士が彼女を見つめていた。

「こんな扱いをされるとは悔しい……仕事を終えて金を貰ったら……」

彼女は誰にも聞こえないように小声で呟くと、細剣の柄を強く握り奥歯を噛み締めた。

「どうした、動きが止まっているが、何か問題でも?」

「いえ、問題ありません! えい! ハァッ!」

突然グレッグに声を掛けられた彼女は、慌てて訓練に戻ると、グレッグはフンと鼻を鳴らし、更なる森の奥へと姿を消した。



「調子はどうだ」

木の影から現れたのはクラレット公爵だった。

「クラレット公爵」

「声を小さくしろ」

「はっ……公爵様。ご覧のように、準備は万事順調です。本来の安っぽい行動さえ見せなければ、やつは公女の代役として問題ないと思います」

「そうか、それは結構」

「もうじき死ぬ運命とも知らず、金の為に邁進する姿を見ると悲しい人生ですな。大陸中の人々の目前で殺されるわけですし……クク、身分が低いというのは本当に悲しいものですね」

「……おしゃべりが過ぎるようだな」

「はっ! 失礼しました……」

「カミルはどこだ?」

「実験室に行くと聞きました」

「わかった。ブルーコーラルへ行く支度をしてくれ」





-秘密人形の実験施設-

「……公爵様!? 連絡がありませんでしたが、いらっしゃられるとは……」

「自分の家に来るのに一々報告が必要か?」

「いえ、公爵様。申し訳ありません」

「どうだ、今回は前回より使えるようになったのか?」

「高級な魔石を使って強度を高めました」

カミルが置かれていた人形兵士に触れると、ゆっくりと軋みを上げながら人形兵士が歩き始めた。

「兵士らしくなってきたな」

クラレットが人形兵士に触れようとした時、どこからともなく声が聴こえ、風と共に白いローブに身を包んだ男が現れた。

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「着々と進んでいるな」

「見ての通りだ」

「私の知る古代人形は人の形をしているが、何故この程度にしかできないのだ?」

「貰った人形兵器では多くを調べられない。もとの情報を我々に提供すれば……」

「それは今後、結果を見て考えるとしよう。だが、この程度でもアノマラドは掌握出来るのではないか? 大量生産だけ可能になれば、使えない人間の軍隊は相手すら出来ないはずだ」

「……まだ完璧ではない」

「私が手伝ったことで、それなりに出来上がったと思わないか?」

ローブを着た男は一歩前に出ると、クラレットを見下ろし、無機質な機械のような瞳を向けた。

「貴様! 手伝ったからといって公爵様に恩を着せるつもりか!」

クラレットに対する傍若無人な態度に、カミルは怒りの感情を剥き出しにして言ったが、クラレットは片手を上げて静かに制した。

「貴公と言い争いはしたくない。だが、私を手伝う理由はまだ話せないのか?」

「さあ……私の思い通りになれば、その時はあんたに話してもいいかもな」

「あんた……だと……!?」

カミルは腰元の剣に手を伸ばして男の前に歩み寄ろうとしたが、クラレットは再びカミルを止めた。

「落ち着け。今日はこれぐらいで帰るとしよう。カミル見送りを」

「はい…………失礼しました。公爵様」

クラレットはローブの男を一瞥すると、そのまま何も言わずに実験室を後にした。


「頭は良くても所詮は人間。私と対敵する存在ではない」

ローブの男は人形兵士に近付くと、無作為に動く人形をガラクタを見るような目で眺めていた。

「ガナポリーの人形、彼らは美しい人間の体をしている。いや、人間と言っても過言ではない。しかしこんな魔石では、ただの缶詰のような人形しか作れない」

突然腕を伸ばしたローブの男は、人形兵士から魔石を引き抜き、直接手を翳して人形の体内に魔力を送り始めた。

「これでテイルズウィーバーたちの試練と苦痛は頂点に達するはずだ」

魔力を注入された人形兵士は鼓動し、ゆっくりと顔を上げた。くり抜かれた瞳の奥が赤く光り、口元からは魔力の結晶が蒸気のように漏れ始めた。

それはまるで、人間を感じさせるような、生命の動きだった。






-シルバースカル訓練当日-

「へへ、訓練って思っただけで楽しいなあ!」

「ったく……なんで俺の周りはポジティブ思考のやつが多いんだろう」

訓練を楽しそうに話すルシアンに対し、マキシミンは呆れたように言葉を吐き捨てた。

「みなさん、怪我せずに頑張りましょう~!」

「訓練はそれぞれ別行動になるでしょうから、終わったら全員でまた宿に集合しましょう」

「そうしましょう。じゃあ、出発しますか」

一同がエンリコの元へ訪れると、エンリコは参加者の為の、説明を記した用紙を手渡してくれた。

用紙にはシルバースカル予選通過者を対象とする公式訓練の内容が記載されており、訓練は全三段階で、訓練を全て終えた者は本選正式挑戦者となって、公式の宿舎に入所することが出来ると書かれていた。

ランジエは訓練の内容を確認すると、さっそく一つ目の訓練から開始することにした。

一つ目の訓練は、イングハスビの幼少時代にあった出来事がテーマになっていた。

当時、過激なココモンキーのせいで町は多くの被害を被っていたが、イングハスビは子供ながらにココモンキーを退治し町を救った。

それに因み、ココモンキーを退治し、証拠としてココナッツを集めてくるのが一つ目の訓練となっていた。

二つ目の訓練は、ブルーコーラル島にあるエルラリウムダンジョンへ行き、浄化の結晶を集めてくるという内容だった。

浄化の結晶はエルラリウムダンジョンにのみ存在が確認された結晶で、ブルーコーラル王城の名誉の殿堂に供え、イングハスビの記憶を再現させる鍵として使用されると書かれていた。

イングハスビの記憶再現を目にしたランジエは、イングハスビの王城守護戦闘を体験するという最後の訓練に挑んだ。

先代の女王は魔法に興味があり、モンスターの研究に役立てていたが、ある日、モンスターを観察する実験室の結界解け、王城に向かって魔物が押し寄せるという事件があった。

王城が魔物に襲われるという一触即発の状態で、イングハスビは危険に立ち向かい、一人で魔物を全て退治し、無事生きて帰ることができるという伝説が残っていた。

その当時の出来事を魔法の力で体験し、見事勝利を勝ち取ることが最後の訓練の内容となっていたが、ランジエは最後の訓練も問題なく終わらせ、エンリコに訓練の完了を告げた。




-訓練終了後 ブルーコーラル宿-

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「みんな、訓練はどうだった?」

「楽しかったですぅ! えへへ!」

「楽しいって……どんな訓練かと思えば、お使いみたいなものもあったな」

「オレは楽しかったよ」

「ジョー君、お前には聞いてないぞ」

「ハハハ。まぁ、落ち着いて。みんな疲れただろう? 色々と大変な一日だったしな」

「そうだ、訓練は終わったけど、宿舎に入ったらお互い連絡が取り辛くなるけど、どうしよう?」

「これを使いましょう」

イスピンはランケンの通信機を取り出すと、床に置き作動させた。

『ジジジ……お……なんだ……ジジ……実験体たちか?』

「そうだ! ランケンがいた!」

『お、この声は聞き覚えがあるぞ』

「うっ、思い出したくも無い声が聴こえてきたぞ」

『うむ? この声はくすんだ茶色実験体?』

「は? くすんだ茶色? はっ! 湿っぽいトマトみたいな顔してるくせに!」

「また始まった……落ち着きなマキシミン」

「ランケンおじさん、こんにちは~!」

『お、この声は黄色い髪のおさげの実験体か』

「ランケン様、素晴らしい研究の方はうまくいっていますか?」

『おお、この声は礼儀正しい赤い帽子実験体だな。当然、このランケン様の天才的な研究はいつも問題なく進んでいるぞ。それよりそっちでの生活はどうだ? 通信機を繋いだということは、何か手伝って欲しいことがあるんじゃないか?』

「当然、天才科学者ランケン様に手伝って欲しいです。通信機が欲しいのですが、他にもワープ装置、爆弾が必要なんですが、直接作って持ってきて頂くことは出来ないでしょうか?」

『なるほど、まかせておけ! この天才科学者ランケン様に作れない物はないからな』

「さすが、頼りになりますランケン様!」

『うむうむ、それじゃあそちらに向かう前に、実験体の方で材料を集めてくれるか? そちらに着き次第、必要な物を作るとしよう』

「わかりました! それで何が必要でしょうか?」

イスピンはランケンを褒めながら会話を進め、装置を作る為に必要な材料を確認した。人数分の装置の材料は思ったよりも多く、時間も無いのでランケンが到着する前に、手分けして集めることに決まった。

数時間後、個々が材料を集めて宿に戻ると、ランケンは既に到着しており、持ってきた部品をずらりと並べ、実験体が戻ってくるのを待っていた。

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「ランケンおじさん! お久しぶりです~!」

「へへ、思ったよりも早かったね!」

「忙しいのに、ここまで来てくださってありがとうございます」

「天才科学者には義理もあるのだよ!」

「へっ、会えてうれ……まぁ、嬉しいことにしておこう」

「実験体たちの熱烈な歓迎は変わらないな。さあ、多忙な科学者ランケン様には時間があまりないから、さっそく作ってみようか?」

「みんな材料は持ってきましたね?」

「言われた通り用意しましたわ」

ランケンは、実験体たちから材料を受け取ると、それらを無造作に並べ、さっそくと作業に移り進んだ。

「あの……ランケンさん? どれくらいかかりますか?」

「うん? 赤くて長い髪の実験体よ、この天才を催促しているのか? 失礼な。いいか、この通信機は音波の波長をマナの流れでパターン化して送っているので、このランケン様固有の技術を……」

「ふええ、イサック……何言ってるの、あのおじさん」

「おい、シベリン! さっさと謝って早く黙らせてくれ!」

「申し訳ありません、ランケンさん。何か手伝えることがあればいつでも言ってください」

「ぶつぶつ……ふむ、これをこうして……ぶつぶつ」

「うわ、もう聞いてないぞこいつ!」

「うぇぇ、変なおじさんだ、おかしなことをぶつぶつ言ってる!」

「こら、アナベル。邪魔しちゃダメだ」

一人で作業に没頭していたランケンだったが、ふと気になった様子で、突然振り返って訊ねた。

「あ、そういえば……君たち、どんな理由でこんなことを頼んだんだ? 全ての物事には原因と結果が存在する。原因を知らないのに、結果を作っているのか?」

「ランケン様は秘密が守れる、信頼出来る科学者ですよね?」

「もちろんだ、赤い帽子の実験体。約束を守るのは科学探求の基本姿勢だ。約束した通りに行わないと実験は失敗してしまうからな」

「みんな、話しても大丈夫だよな?」

「ボクたちの命が危うくなるかもしれませんが、理由も聞かずにボクたちを手伝ってくれたランケン様を信じます」

「うん! ここまでやってくれてるのに、理由を話さないのはダメだ。それに、ランケンさんはどこかで勝手に話すような人じゃない」

「そうだな……ランケン様、お話します。オレたちはオルランヌのニセ公女について調査をしています。シルバースカルにニセ公女が出場したんです。そのニセ公女が本選まで進出して、クラレット公爵の陰謀が成功する前にオレたちが阻止するんです」

「……政治にまったく興味がない私でも、ちょっと驚いたな。でも危なくはないのか? 私の大事な実験体たちが傷つくのは嫌なんだが……」

「大勢の人間を移動させるので、ランケン様のワープ装置でも遠くまでの移動は難しいです。危ない状況が続いたら安全は保障できなくなります」

「え! そうなのか! こりゃ運が悪いと捕まるかもな」

「携帯できるワープ装置だから性能に限界があるんだろう」

「遠くまで逃げられないの? アナベルはイヤ! 捕まって牢屋になんか行きたくないよ~!!」

「何か方法はないのかしら」

「実験体諸君。事が片付いた時、パッと遠くに消えることができれば大丈夫ということか?」

「まぁ、似てるけど……ランケンさんがそういうふうに言うから何だか不安だね」

「何かいい方法をおもいついたの?」

「私が今している研究と関係がありそうだな。今のワープ原理を逆に適用できる装置を研究しているんだ。位置を変更する対象が直接ワープするのではなく、相手側でその対象をワープさせるような……ふむ、それをふまえて作ってみよう」

「わあ~ すごいですね!」

「仕事が終わったら通信機で連絡してくれれば、私が君たちを全員、私がいるところに移すことはできる。」

「本当に、天才だった、の?」

「天才科学者ランケン様の偉大な業績だ」

「ハハハ! それじゃあ俺たちは無事に脱出できるんですね!」

「ありがとうございます! 天才科学者ランケン様!」

「よし、それならこれで完成だ。爆弾も出来ているぞ。仕事が終わったら通信機で連絡してくれ。それでは失礼するよ、私の大事な実験体たちよ~!」

頼まれた物を全て作り終えたランケンは、誰とも目を合わせることなく去って行った。

「あちゃ~、お礼を言う前に行ってしまった……」

「あっというまの出来事でしたね」

「とはいえこれで準備は終わったし、あとは実行するだけですね」

「それではグループに分かれて作戦に取り掛かるとしましょう。仕事が終わればエルラ島で合流ということで宜しいですね? 事件が起きた場所と離れた方がいいですから」

それぞれはグループに分かれ、ランジエから通信機、ワープ装置、爆弾を受け取ると、作戦の成功を信じ出発した。




-シルバースカル大会 宿舎城門前-

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王城の入り口では、訓練通過者が列を成し、順番に宿舎へと入って行った。

ニセ公女が王城に入ったのを確認したグレッグは、付き従う兵に念を押すように言う。

「無事に宿に入ったか、手違いのないように一瞬たりとも目を離さないようにしろ」

「はっ! 承知しました!」

その反対側では、予選通過者を見守る見物者に混じり、公女を探す二人の男がいた。

姫の噂を辿り、ブルーコーラルへ訪れたフレネルとガルニエは、本当に公女がいるのか確かめようとしていた。

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「姫様らしき姿はあったか?」

「人がたくさんいてわからない……」

「我らも大会に参加するべきだったか……」

通過者最後の列に並んだランジエたちは、気を引き締めて王城の門をくぐった。

中では兵たちが通過者の証明と顔を確認しながら、一人ひとりを宿舎の部屋へと案内した。

ランジエが案内されたのは、倉庫として使われた様子の部屋だった。部屋は綺麗に掃除され、内装の一部も変えられている箇所も見えた。

真新しいベッドに腰掛けたランジエは、一度部屋を見渡し、外に人の気配がないのを確認すると、通信機を作動させた。

「ランジエです。通信は良好でしょうか?」

「ボクも到着しました、意外に綺麗な部屋ですね」

「こっちは虫が多い」

「到着した、お城だと期待したけど、ただの宿屋、がっかり」

「まぁいいじゃない、どうせ長居することもないんだしさ」

「それでは地下への入り口を探しましょう」

ランジエは地下へ繋がる入り口がありそうな場所に目星をつけると、通信機をしまい、再び外の気配を確認した。

ランジエは古ぼけた小さな本棚をどかし、薄い木板をめくると、人が一人入れそうな地下への入り口を見つけることが出来た。

「よし、行こう」

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入り口は狭かったが地下はひらけており、部屋の下には長い通路が伸びていた。

ランジエは折り畳みの小さなランプを灯すと、奥からは小さな影が近付いた。

「通路、全部、繋がってる?」

ナヤトレイはランジエを追い越すと、暗闇に目を向け、気配だけを感知し、一言呟いた。

「シベリンとルシアン。奥にはミラもいる」

その後すぐにイスピンとボリスも合流し、ニセ公女の元へと続く通路を歩いていった。

大きな広間に出ると、イスピンは長年使われていない蜀代に火種を置き、火の魔法を唱えてまわって部屋を明かりで照らした。

天井から落ちる水音が静かに響く中、ボリスとルシアンは剣の柄に手を預けたまま、辺りの様子を確認した。

ナヤトレイも人の気配は感じないといったので、ミラは少し安心した様子でランジエの元へ寄った。

宿舎に入る時に、兵の目を盗んでニセ公女のいる宿舎の番号を確認したランジエは、地下通路の地図を開き、ミラと共に公女のいる位置を確認した。

「このすぐ上です」

「よし、この広間に爆弾を仕掛けよう」

手分けして爆弾を設置した一同は、ニセ公女がいる部屋の下に集まると、静かに階段を登っていった。

「な、なんだお前等は!」

突然壁が破られ、大勢の人間が押し寄せたので、ニセ公女は慌てて剣を掴んだ。

「ご安心を、我々は公爵様の使いです」

「詳しいことはここを出た後にお話します、静かにここを出ましょう」

「何かあったのか?」

ニセ公女は、公爵の使いと聞くとすぐに剣を納めた。ナヤトレイが部屋の外の様子を伺っている間に、シベリンとイスピンはミラを見えないようにニセ公女を囲った。

「爆弾が仕掛けられたという報告がありました」

「わかった、行こう」

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既にワープ装置の準備を整えたランジエが、ニセ公女を装置の前に誘導すると、ミラは公女が後ろを向いている隙に爆弾を起爆させた。

激しい爆発音と共に、煙が城中に巻き起こった。ランジエは同時にワープ装置を作動させ、ニセ公女を部屋から連れ出すことに成功した。



「火事だー!」

「何だ! 一体何が起こった!」

「早く人々を避難させろ!」

王城は煙で充満し、人々は混乱しながら城の外へと逃げ出していった。

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爆弾の起爆はうまくいき、騒動を起こすことに成功したランジエたちだったが、ワープした場所は、宿舎と目と鼻の先の空き地だった。

「ハッ……ここは宿の前じゃないか! 何でここにワープしたんだ?」

「ちくしょう、無理があったのか?」

「今は喋っている暇はありません。走りましょう」

ニセ公女の腕を取ったイスピンは、急いで宿舎から離れようとした。

「どういうことだ! 何の騒ぎだこれは!」

兵を連れて城の外へ出たグレッグは、公女を急いで探すように指示を出した。

「グレッグ様、あそこに!」

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兵が指差す方を見たグレッグは、ニセ公女が誰かに連れられ逃げ出す姿を見つけた。

「ええい、何ということだ……! 早く追え!」





-エルラ島 集合場所-

「時間ぴったりに着いたわね、むこうのチームはまだかしら」

爆弾を使い人形兵士の実験場の施設を破壊したクロエたちは、脱出時に集めた資料を纏めながら、ランジエたちのチームが来るのを待っていた。

「そうですね。すぐ来ると思いますけど……」

「お、来たぞ。なんだ……? すごい慌ててるけど、何であんなに急いでるんだ」

マキシミンが目を凝らして確認すると、大慌てで走るランジエたちが見えた。

「なんだ!? あいつらいっぱい連れて来てるぞ?」

「あれは……やっぱり見つかったみたいだ」

「あちゃー」

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ニセ公女を連れたランジエたちは、クロエのチームと合流すると、マキシミンとジョシュアはそれぞれの武器に手をやった。

「逃げるのは無理そうですね。戦いましょう」

そう言うとジョシュアは大地を蹴り、長斧を構えた兵に鋭い突きを放った。

「はぁっ!」

「ぐぅっ!」

ジョシュアは一瞬で急所を突いて兵を倒すと、次の目標に向け静かに小剣を構えた。

その光景を目にし、兵たちが緊張した瞬間。マキシミンは一人の兵に近寄ると、相対する相手の剣を弾き、続ける一撃で兵を屠った。

「みんな公女を守って!」

イスピンが叫び、一同は公女を囲うように陣形を整えた。既にティチエルは防護魔法の詠唱を始め、クロエは境界を示すように炎の渦を巻き起こす。

「ぐわぁぁ!」

「くぅ、なんだこいつら!!」

「そのまま近づけないで! レイさん、ランジエさん、カバーしてください!」

ナヤトレイとランジエは、敵を近づけないよう波状的に遠距離から攻撃を放ち、無理矢理にでも近付こうとする者はシベリンとボリスが連破した。

兵の数は圧倒的に多かったが、統制の取れた戦いに、後方で見ていたグレッグは、戦いがそう長く続かないことを悟った。

兵たちも、次々に倒れていく仲間の有様をむざむざとみせつけられ、歴然とした力の差を感じ、容易に近付くことも出来なくなっていた。

「グ、グレッグさま……」

一人の兵が助けを求めると、グレッグはクラレット公爵に事実を知らせるように伝えた。このままでは全滅も免れないと感じたグレッグは、人形兵士の力を頼ろうとしていた。

じわじわと後方へ退く兵たちの隙を見つけたイスピンは、クロエとルシアンに撤退の合図を送った。

小さく頷いたクロエは、火球を砂地にぶつけて砂礫を舞い上げると、ルシアンが風の魔法でそれを大袈裟に撒き散らした。

「今です!」

砂嵐が吹き荒ぶ中、イスピンの合図で一同は一斉にその場から走り去り、なんとか無事に逃げ出すことに成功した。


「ふぅ……なんとか逃げだすことが出来たみたいですね」

「アナベルがいっぱい叩いてあげたの!」

「うんうん、アナベルはよくやったよ……それより、これからどうしますか」

「待って下さい、ランケン様と連絡をつなげます」

通信機を取り出したランジエは、ランケンと連絡を取ろうとしたが、通信は途切れたままで、ランケンが応答することはなかった。

「あのトマト頭め! 何で反応がないんだ!」

「早くワープしないと、すぐにクラレットが兵力を連れて来るはず」

『ジジジ……ジジ……すまない……少し問題が……ジジ』

「ランケン様! 今すぐ私たちをワープさせて下さい! 急いで!」

『赤い帽子実験体だな? すまない、少し待ってくれ、後で連絡する……ジジ』

ランケンの通信はすぐに終わり、その後は無音が続くだけだった。

「ランケンさん! ランケンさん!!」

「また途切れてしまいました」

「仕方ありません、もう少し待つしか……そういえば、人形兵器は本当に存在したんですか?」

「はい! 確かにありました。本で見たのとは全然違ったけど……」

「ランジエさん、今は人形の情報は重要ではありません。戻ったらちゃんと説明しますから。それより、この人がニセ公女なのかしら?」

クロエが公女に目をやると、ニセ公女は憤慨し、全員を睨みつけた。

「私を誰だと思ってこんな真似をするんだ!」

ニセ公女の態度を見たイスピンは、ニセ公女に近付くと、堂々とした態度で言葉を発した。

「オルランヌ公爵が結構気に入ったみたいですね? クラレットとグルだというのはお見通しです。演技はもうこの辺で止めたらどうでしょう?」

「何だと!? くそ……お前らは公爵が送った使いじゃないのか? 私は言われた通りやっただけだ……」

「まだ罪の重さをわかっていないみたいですが、あなたは姫を侮辱したオルランヌの反逆者です。このままだとあなたの命はもちろん、あなたの親族も生き残るのは難しいでしょう」

「私に家族なんかいない。それに、クラレットと約束した!」

「あの人を信じるなんて愚かですね。大会であなたを殺す計画を立てていたんです。ニセ公女であるあなたを殺し、本物が死んだと世に知らせるつもりだったんですよ」

「そんな!? 優勝者になれば、金を貰って他の大陸に逃げればいいと言ってくれた。一生面倒を見てくれるってな!」

「あの人は自分の甥も自らの手で殺そうとしていた人です。オルランヌ出身なら誰もが知っている事実です」

「そんなことは私と関係ない。私は……仕事をして金をもらえばそれでいい」

「信じても信じなくてもそれは関係ありません。あなたはいつか死んでしまう運命ですから」

「ここで……こんな風に死ぬわけにはいかない……」

ニセ公女が絶望に打ちひしがれる様子を見たイスピンは、彼女の肩に手を置き、優しい声で訴えかけるように言った。

「わかりました。では、逃がしてあげますから覚えておいて下さい。ボクたちの顔、関係は誰にも言ってはいけない。誘拐されたということも、あなたはただ、爆弾の音を聞いて宿を飛び出しただけ。」

顔を上げイスピンの声を聞いたニセ公女は、それが助かる方法ならばと、何度も頷き、最後に一度はっきりした声で返事をした。

それを見ていたクロエは、イスピンの巧みな話術に一目を置いた。

イスピンは公女と近しい中だったとは聞いていたが、オルランヌ情勢やクラレットの性格。ニセ公女の扱いなど、本物の公女の為に力を尽くす様子は、目を見張るものだった

イスピンが本物の公女だと知っているマキシミンは、イスピンの冷静さに、改めてイスピンがオルランヌの公女であることを認識した。

「おい、誰か来るぞ!」

見張りをしていたミラが声を上げると、イスピンは見覚えのある二人の男の顔を見つけた。それは、オルランヌのガルニエとフレネルだった。

慌てたイスピンは、再度、忠告を守るようにニセ公女に告げ、向かってくる二人と一緒に行けば命は守られると言った。

ニセ公女は理解出来ないままそれに頷き、自分はあの二人の元へ行くのだと、不安の中で覚悟を決めた。

イスピンの元へと近寄ったガルニエは、後ろに偽者の公女を名乗る人物がいることを確認すると、フレネルのほうへ向き頷いた。

「その方をこっちに渡してください」

「どういうことですか? いきなりそう言われても……彼女に何かあるのですか?」

イスピンは困ったような顔を見せ、訝しげに彼女にどんな用があるのか聞いた。

「それは言えません。その方をこちらに渡して下さい」

「顔見知りだとはいえ、理由もなく人を渡すわけにはいきません」

「……剣が必要とあらば」

フレネルは肩に担いだ剣を一度鳴らした。

その言葉に反応し、シベリンは槍を構え、マキシミンは鞘から剣を抜き、ゆっくりとイスピンの前に歩み寄った。

「必要ならば」

イスピンは目を逸らすこと無く、フレネルに言った。

張り詰めた空気が流れ、刹那の時を数えた瞬間。フレネルは剣を下ろし、自分たちの身分と目的を教えることを決めた。

「……仕方ありません。無益な戦いは願いませんので。我々はオルランヌ王室で働く者で、その方は公女様の偽者です」

「フネネル!?」

ガルニエはフレネルが身分を明かしたことに驚いたが、フレネルは大丈夫だと言ってガルニエを落ち着かせた。

「はい? じゃあ、ニセ公女の噂は本当だったんですか? そんな……それなら仕方ありませんね。宿舎で爆発があって逃げ出したんですが、この人が迷子になっていたから面倒を見ていました……そういうことでしたら、連れて行ってください。」

イスピンはとぼけたように、用意していた理由をつらつらと述べると、ガルニエとフレネルに、ニセ公女へと道を開けた。

「ご協力ありがとうございます。それでは……」

二人がニセ公女を連れていくのを見届けると、ミラはイスピンの演技力の凄さに呆れたといった表情を浮かべ、それと同時に、連れて行かれた公女が心配になってしまった。

「しかし、あの子を渡したら反逆者にされて死ぬんじゃないか?」

「いいえ、殺すことはできないはずです」

「どうして? 言葉通りの反逆者じゃないの? 公女って嘘までついたんだよ」

「ルシアンさん、オルランヌ大公派はクラレットの弱点を握っていることになるから、彼女は良いカードになるはずですよ。だから、すぐに命は奪わないでしょう」

ジョシュアは、政治で人の命を自由にするということを良くは思わなかったが、そういう事実があるということも否定できなかった。

ランジエは再び通信機を作動させ、ランケンとの通信を繋ごうとした。

だがその時、殺気に満ちたグレッグの叫び声が聴こえた。

人形兵器の準備を整えたグレッグは、生き残った僅かな兵と、大量の人形兵士を連れ、ランジエたちの元へと辿り着いていた

「しまった、追いつかれた!」

「公女をどこに隠した!」

「はっ、公女だって? そんなヤツ見てないな」

マキシミンは嘲笑しながらグレッグを睨みつけると、グレッグは怒りを露にし、兵に指示を出した。

「こいつらは話にならない。捕まえろ!」

「人形……!」

多くの人形兵士が並ぶ中、その奥には一際巨大な人形兵器がゆっくりと歩みを進めていた。

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「あれが人形兵器……あんなに大きい人形を動かせるエタが存在するなんて……」

「実際に見ると、威圧感を感じるわ……」

イサックはアナベルの正面に回って守ろうとしたが、突然アナベルは目を虚ろにさせ、小さく言葉を漏らした。

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『偽り……うわべだけの……妄想……』

アナベルの言葉を聞いた途端、ボリスの頭の中で甲高い音が響いた。

「うっ! なんだ……これは……」

それと同時に巨大な人形兵器は咆哮し、仲間たちは、ボリスやアナベルの異変に気付くこともなく、すぐに戦闘が始まった。

「みんな気をつけて!」

人形兵士の数は三十を超えていた。動きの遅い人形たちを相手にするには、散開した方が得策と考えた一同は、それぞれが個別に人形を撃破するのが妥当だと感じた。

ナヤトレイは素早い動きで人形兵士を翻弄し、後ろに回りこむと、鎧の隙間を狙って短刀を刺し込み、力一杯にそれを引き抜いた。

鋭い金属音が響き、無残に落ちる鎧の腕。しかし、痛みを感じない人形兵士は、反対側の腕を振ってナヤトレイを吹き飛ばすと、不気味に目を光らせ、ゆっくりと近付いていった。

それを見たミラは、巧みに鞭を撓らせ、関節や首を締め付けようと拳を握り上げた。人間ならば呼吸も出来ずに昏倒し、痛みの余りに意識を失うはずだが、人形兵士は悲鳴を上げることもなく、まるでびくともしない。

イサックは鎧の腹を抉るような、力強い一撃を打ち込むが、鎧が変形するだけで、シベリンが放つ槍の一突きも、飾り物の目を割るだけとなっていた。

切り裂く風も、燃えつくす炎も、凍てつく氷の魔法も、人形兵士にはまったく利かず、一同は消耗戦を強いられる形となってしまった。

「ちくしょう! いくら攻撃しても効かない!」

「それになんだか、力が抜けていくような……まだまだ戦える筈なのに……」

最初に地に手を着けたのはイスピンだった。人形兵士の攻撃がイスピンを襲うが、シベリンがなんとかそれをかばって、人形兵士の足を払い退けた。

「大丈夫か! イスピン!」

「まさかこれは……強力な魔法結界!」

ランジエは、巨大人形兵器から放たれる魔気を感じると、人形兵士を掻い潜り、巨大人形兵器に五発の銃弾を浴びせた。

しかし、銃弾は巨大人形兵器に命中する前に塵となって消え、何事もなかったかのように、巨大人形兵器は再び咆哮を上げた。

「本当に殺せない存在というわけか」

人形兵士の一撃を受けきれず、次に倒れ込んだのはボリスだった。

「ボリス! 大丈夫!?」

「うう……頭が……くっ」

状況は悪い方へ転がる一方だった。

「わたくしが……!」

状況を打開しようと、クロエは巨大人形兵器の足元に近付くと、強力な雷の魔法を唱えようと詠唱を始めた。

「だめだ! そんな距離で魔法を使ったりしたら!」

クロエの魔法は巨大人形兵器の正面で炸裂した。モイラはその衝撃で吹き飛び地面に倒れたが、巨大人形兵器には傷一つつけられなかった。

「モイラさん!」

クロエに駆け寄ったジョシュアは、近付く人形兵士の頭を突き飛ばし、鎧を蹴って跳ね除けた。

「大丈夫ですか!」

「ううっ……」

傷みを堪えるクロエを見たジョシュアは、怒りに身を震わせ、巨大人形兵器へと飛び出した。

「はッ! スタッカート!!」

ジョシュアの簡潔した連続の突きが放たれた、だが、やはり巨大人形兵器にはまったくダメージを与えることが出来ない。

「どうなってるんだ……!」

大きく振り下ろされた巨大人形兵器の大刀は、着地したばかりのジョシュアを狙っていた。

「審判者に触れるな!!」

ジョシュアの危険を察知したナヤトレイは、短刀を投げ捨てジョシュアに飛び付いた。

なんとか一撃を交わすことに成功したが、魔気に当てられた二人は、すぐに立ち上がることは出来なかった。

「ううっ……」

必死でクロエをかばうティチエルの魔力は底を尽き、ルシアンはボリスの周りの敵を排除しようと必死だった。

ボリスは頭の痛みを堪えようとするが、なかなか立ち上がることが出来ないでいた。

遠くの悲鳴がすぐ近くから聴こえ、絶望に顔を歪める仲間たちの表情が、目の前でゆっくりと描写されていた。

傷口からは赤い血がとめどなくながれ、乾いた土を湿らせる。

無機質な人形兵士の瞳が残光を残しながら揺れ、巨大な人形兵器はあざ笑うかのように聳え立っていた。

そして、ボリスは自身の剣から手を離し、無意識のうちに、背に納めていたウインタラーの柄を握った。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

突然辺りには冷気が振り撒かれ、ウインタラーの刀身が青く輝きを放った。強力な魔力が周囲を覆い、いくつもの冬が訪れたように大地は凍りついた。

ウインタラーを抜き放ったボリスは、青く染まった瞳を巨大人形兵器に向けた。

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「ボ、ボリス!」

ルシアンはボリスの只ならぬ様子に声を上げて叫んだ。だが、ボリスは反応することなく、ゆっくりとウインタラーを構えた。

三体の人形兵士がボリスに襲いかかったが、ウインタラーは一瞬にしてそれらを粉砕した。あっという間の出来事に、その場にいた仲間たちは驚きの余り声も出なかった。

ボリスが人形兵器に近寄ると、ウインタラーは更なる輝きを放ち、翳した冷気が人形兵器の刀を凍らせた。


わが懐に来たりて 汝の力を示せ

数多の人間どもの如く 汝の証を示せ

汝もまた 血塗られた手を 洗うことは出来ぬ



ボリスの頭の中で響く声は、次第に大きさを増していく。

ウインタラーを振り抜いたボリスは、保護結界を打ち破り、巨大人形兵器を真っ二つに切り裂いた。巨大人形兵器は、二本の氷の柱となって凍りつき、轟音を立てて砕け散った。
 
巨大人形兵器が破壊されると同時に、人形兵士は動力を失った機械のように動きを止め、ばらばらになって転がった。

まるで使命を終えたかのように、輝きを失ったウインタラーはボリスの手から離れ落ち、ボリスもまた、地面に倒れこんだ。

「ハッ……ううっ……」

「ボリス! ボリス!」

ルシアンはボリスに駆け寄り手を掴んだ。

「大丈夫だ……ルシアン」

ボリスは大丈夫だと言ったが、手のひらは冷たく、凍えたように赤く腫れていた。

「くっ……随分やられたな。久しぶりに骨にヒビがはいったみたいだ。ハハッ」

「この状況で笑えるのかよ、はぁ……」

「うぅ……わたしが回復魔法を使えれば……」

「大丈夫か、チビも怪我してるんだから無理するな」

「ミラお姉さん……わたし、力が……」

全ての力を使い果たし、全員が満身創痍だった。

「みなさん……もう少し頑張って下さい……またクラレットが兵を送り込む前に……早くここから離れたほうが……うっ……」

倒れそうになったイスピンを支えたマキシミンは、傷ついた仲間たちを確認しながら、気力を振り絞るように言った。

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「みんな起きろ! お互いで支えあうんだ!」

「ボリス、しっかりして……!」

「支えましょう」

「モイラさん、大丈夫ですか」

「一人で大丈夫です……うっ」

「アナベル、しっかりするんだ!」

「うぇぇ……いたいよぉ」

「もうすこしで町に着きます、しっかりして……」

「一刻も早く休みたい気分だぜ……」

「ほら、頑張っ…………え!?」

傷ついた一同の前に突然現れたのは、ふわふわと宙に浮く、青い髪をした少女だった。

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『テイルズウィーバー』

『あなたたちが歩んだきた道はいばらの道』

『そして今は一歩も動けずにいる』




口も動かさず語りかけた少女は、一人ひとりを見つめながら、最後にアナベルの方を向いた。

「お前は!」

少女の出現に、覚醒したアナイスは驚きの声を上げた。

「アナベル!? いや……アナイスなのか……」

アナイスは少女の出現に驚きを隠せなかった。イサックはアナイスと変わったアナベルを心配するが、アナイスがそれ以上の言葉を発することはなかった。

少女はアナイスからジョシュアに視線を滑らせると、再び言葉を繋げた。

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『最後の夕焼けが暮れる頃……姿を消した月が現れ……』

『月の光で作られた道をそっと踏んで行けるように……』



少女の言葉を聞いたジョシュアは、彼女の言葉の意味を理解した。


同じ運命の中に置かれた十三人の記憶。物語を紡ぐ為の運命の道。

選ばれし者と、導きし者。

織り成す物語が行く着く先は。

最後の運命は。

その時にはもう、既に決まっていたのかもしれない。














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ローゼンバーグで活動中
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